道徳実在論者ほどより寄付をするという研究(Young. Liane., & A.J. Durwin. 2013.)
今までの研究では、道徳が客観的なものであると考える人ほど、異なる道徳的信念を持つ人に不快感を感じるとか*1、道徳実在論は暴力的行為を動機づけるという研究*2 がありました。
そこで今回紹介するのは、道徳が存在すると考える人ほど、寄付する傾向が高くなるという研究*3
つまり、道徳実在論の良い点について焦点を当てた研究です。
実験は道徳実在論、非実在論、統制群のグループにランダムに分け、それぞれのグループでどれだけ慈善団体に寄付する傾向が違うのかが探られています。
実験内容は以下のとおり
- 最初の実験は138人の通行人を慈善団体の職員に扮した研究者が呼び止めて、次の質問をした。
- 道徳実在論のグループに割り当てられた人に「何らかのことが道徳的に正しいか不正か、善いか悪いかであることに同意するか、また、世界のどこにおいてもそれが成り立つかどうかに同意するか」と尋ね、
- 非実在論者のグループの人に割り当てられた人は「私達の道徳と価値は文化や教育によって形作られたことに同意するか、また、道徳的真理を発見することはそれぞれの人々に委ねられているのか」と尋ね、
- 統制群の人には何も尋ねなかった。
- そして、慈善団体に寄付するかを尋ねた。
要するに、実験参加者に道徳実在論、反実在論に関する内容の刺激を与えることによって、寄付するどうかという判断にどれだけ影響を与えるのかについて調べたわけですな。
結果として、道徳実在論のグループは非実在論、統制群と比べて2倍寄付する傾向があったそうな。
この実験の後、著者たちはインターネットでも同様の調査が行ったのですが、それもこの実験の結果を裏付けたようです。
著者たちはこの結果を次のように説明しております。
- 道徳実在論は自分自身の道徳的地位を際立たせる可能性がある(たとえば、道徳実在論者であるほど、罰の可能性に敏感になるかもしれない)。
- 道徳実在論に関する刺激を与えることは共感的な、もしくは集団主義的な刺激を与える可能性がある。
また、著者達は今後の研究について次のように述べております。
将来の研究のための重要なトピックは道徳実在論と道徳集団主義の関係、すなわち道徳実在論は人を集団への貢献へと動機づけるかどうかである。将来の研究では、共通の道徳に関する刺激を与えることが、人が共有する他の特徴と比べて、独自の効果もしくは独自の強固な効果を産出するかどうかを探求するかもしれない。
最後に、この論文を読んでいて思ったのは道徳虚構主義とか、道徳撤廃主義の議論です。
こうした経験的な研究によって道徳が存在すると考えられることのメリット・デメリットが明らかになることによって、いかなる立場を取るべきかが決まってきそうだなと思いました。
*1:Goodwin, G. P., & Darley, J. (2012). Why are some moral beliefs seen as more objective than others? Journal of Experimental Social Psychology, 48, 250–256.
*2:Ginges, J., Atran, S., Medin, D., & Shikaki, K. (2007). Sacred bounds on rational resolu- tion of violent political conflict. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 104(18), 7357–7360.
*3:Young, Liane, and A.J. Durwin. 2013. Moral realism as moral motivation: The impact of meta-ethics on everyday decision-making. Journal of Experimental Social Psychology 49 (2): 302–306.